この事例の依頼主
40代 女性
相談前の状況
相談者は30代後半の女性です。高校生と中学生の娘二人を育てながらパートで働き、忙しい毎日を過ごしていました。左ふとももの痛みで、下肢静脈瘤と診断され、左大伏在静脈を抜去する手術(ストリッピング手術)を受けたのですが、なんと、静脈と間違って浅大腿動脈を抜去されてしまいました。搬送された病院で人工血管置換術を受けてなんとか命は助かりましたが、相談時にはまだ入院中で、今後の生活を思って途方に暮れているという状況でした。
解決への流れ
相談者の自宅は古い日本家屋で、下肢の運動障害を抱えて生活できるような環境ではありませんでした。そこで、相談者の退院を可能にするために、家屋をバリアフリーに改造するための費用について、相手方に対して仮払い仮処分を申し立て、900万円の支払を受けました。最終的な解決額については、後遺障害等級5級相当を主張する患者側と、12級相当を主張する医師側の開きが大きく、裁判になりました。原告本人尋問と、後遺症の治療にあたっている医師の尋問を経て裁判所が和解を勧告し、請求額の6割程度で和解が成立しました。
医療過誤で、仮払い仮処分を申し立てたのは、この事件だけです。医療過誤は、過失や因果関係の論点が難しく、損害賠償を請求するのは十分な調査を経てからというのが原則ですが、本件の場合、過失が明らかであり、家屋改造ができないことによって入院が長引き損害が拡大するという特殊性から、チャレンジしてみました。静脈を一本引き抜くというと、わたしたち素人は、そんなことをしてほんとうに大丈夫なのだろうかと心配になりますが、ほかの静脈が健在であれば問題はないらしく、よく行われている手術のようです。指摘されている合併症も、麻酔に伴うものや、神経損傷といった外科的処置一般のものがほとんどで、とくに危険な手術だとは言われていませんし、間違って動脈を抜去してしまう危険性を指摘している文献はみたことがありません。かなり珍しい事故だと思われますが、やはり医療は重大な危険と隣り合わせであることを忘れてはならないと思います。