犯罪・刑事事件の解決事例
#医療過誤

腹痛、嘔吐を訴えて夜間外来を受診、急性胃腸炎との診断で点滴を受けて帰宅した69歳の男性が、翌朝、吐瀉物誤嚥で死亡していた事案

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小林 洋二 弁護士が解決
所属事務所九州合同法律事務所
所在地福岡県 福岡市東区

この事例の依頼主

60代 男性

相談前の状況

司法解剖で絞扼性腸閉塞であったことが判明しましたが、病院は、吐瀉物誤嚥での死亡は予測できないとして、腸閉塞の見逃しと死亡との相当因果関係を否定し、解決金300万円を提示していました。

解決への流れ

訴訟外で死亡慰謝料及び逸失利益を請求、病院側の提示額が300万円から変わらなかったので訴訟となりました。病院側は過失、因果関係とも全面的に否定して争いました。訴訟では、急性腹症の診療においては腸閉塞を除外することが必須であること、特に本件の患者は虫垂炎手術の既往があり、嘔吐が主症状であったこと等から腸閉塞を疑うべきことは当然であり、最低でも腹部単純X線撮影を行うべきであったことなどを教科書的な文献で立証しました。また、因果関係については、文献に加えて、解剖にあたった医師の意見書で立証しました。その結果、担当医及び遺族の尋問前に、裁判所が和解を勧告し、過失、因果関係があるという前提での和解が成立しました。

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小林 洋二 弁護士からのコメント

急性腹症とは、「発症1週間内の急性発症で、手術等の迅速な対応が必要な腹部(胸部等も含む)疾患」と定義されています。「急性胃腸炎」であれば手術は必要ないので、「急性腹症」には該当しないことになるのかもしれません。しかし、「急性胃腸炎」というのは、いわゆる「ゴミ箱診断」であり、急性発症の腹痛の原因となり得る他の疾患を否定してはじめてつけることのできる診断名だとされています。特に、虫垂炎と絞扼性腸閉塞は、手術が遅れると致命的になる腹部疾患の代表であり、これを除外することは必須です。本件では、それを除外するための何の検査も行われていませんでした。本件は、看護師をしていた娘さんの強い希望によって解剖が行われ、絞扼性腸閉塞であることが分かりました。奥さんは解剖に消極的であったとのことですから、娘さんに医療についての知識がなければ、解剖がなされず、本当の死因が分からないままになっていた可能性が大きいと思われます。このような事案をみると、死因不明として埋もれていく医療過誤は、まだまだ多いのかもしれないと思います。