この事例の依頼主
40代 男性
空調機械の製造工場班長が、膜下出血で倒れ、半身麻痺の生活を余儀なくされました。本人さんとご家族が、労働基準監督署に労働災害申請を行いましたが、認められませんでした。加えて、労働者災害補償保険審査官に対し審査請求しましたが、これも認められず、労働災害による給付金を受け取ることができない状況でした。ご家族は、労働保険審査会に再審査請求された後、当事務所へ相談に来られました。
ご本人が倒れる前の時間外労働時間は、30数時間〜20数時間、6ヶ月を平均して60数時間でした。労働災害申請について厚生労働省が定める認定基準は、発症前月100時間、発症前6ヶ月平均80時間です。そのため、この基準を満たさないとして、労働災害と認められていませんでした。地方裁判所に労働災害給付不給付決定処分取消訴訟を提起しました。加えて、脳外科医の先生に意見書の作成をおねがいしました。この方は、業務と脳疾患との関係について脳外科の立場から疾病発症の機序を研究され、全国の訴訟で裁判所に意見書を提出されている方でもあります。意見書の内容は、長時間労働が睡眠時間を減少させ、その結果、脳血管の修復機序が侵害されて血管が損なわれ脳血管障害が発生するというもので、裁判所にとっても理解しやすい内容でした。被告である国側からも前記認定基準作成に当たり座長を務めた医学者や、その他数名の医学者、医師の意見書を提出してきましたが、論理がずさんであるためすべて反論し、裁判所は、厚生労働省の認定基準を満たさなくても長期間、長時間労働が行われ、疲労が蓄積し、その回復がはかれない中で発症したものなので労働災害であると認定し、不支給決定処分を取り消しました。結果、無事労働災害として認められることとなりました。
医学論争の果ての勝訴判決でしたが、長時間労働による慢性疲労と脳疾患発症の機序を内容とする医学意見書が決め手となりました。認定基準を満たさない、特に発症前の残業時間数が30数時間、20数時間という事案でしたので、同種事案の労働災害認定のさきがけとなりました。このようなご相談は、時に医学領域との連携が重要になります。私は、公害、ハンセン病、じん肺訴訟などの弁護団も務め、医学的根拠を丁寧に積み重ねた論理展開が可能です。