この事例の依頼主
女性
相談前の状況
お父様を亡くされた長女さんからのご依頼でした。お母さんとお兄さんから「お父さんは相続税対策で数年前にマンションを建てた。お父さんの遺産はこのマンション以外にほとんどない。またローンはたくさん残っているので、お父さんは債務超過だ。お前は相続放棄しろ。相続放棄しないなら、お前もお父さんのローンを支払え。」と要求されたとのことでした。
解決への流れ
お母さんとお兄さんの要求は法的に全く通らないことを説明しましたが、全く要求を変えないので、遺産分割調停を起こしました。すると、お母さんが代理人を付けてくれたので、建設的な話し合いができるようになりました。まずは、遺産分割が終了するまでの間、マンションの賃料の依頼者様の相続分にあたる金額を毎月依頼者様に送金してもらうようにしました。その後、お母さんの方から、「代償金として○○円支払うから、マンションの名義は全て自分に欲しい」という提案がありました。しかし、こちらの見解では、明らかに提示された代償金は安すぎたので、裁判所の指定に基づく不動産鑑定の実施を求めました。その結果、こちらの期待とおりの鑑定額が提示され、お母さんも、「マンションをもらうためには仕方がない」と納得してくれました。こちらが受け取る代償金の金額は、当初のお母さんの提案から1億円以上増えました。お母さんには銀行から追加融資を受けていただいて、代償金を一括でお支払いいただきました。
不動産の評価額は「固定資産税評価額」、「相続税評価額(路線価)」、「公示価格」などがありますが、当事者間で合意できればどのような金額でもよいことになっています。お互いに「査定書」を取り合って、その中間で合意するというケースもよくあります。当事者間で合意ができなければ、裁判所が指定した不動産鑑定士による鑑定額が不動産の評価額となります。この鑑定を実施するためには数十万円以上の費用が掛かります。これだけの費用をかけても「相続税評価額」や「お互いの査定書の中間値」とそれほど変わらないケースの方が多いです。ですから、裁判所の指定による鑑定が実施されることはあまり多くありません。私は相続事件を代理人として150件以上、経験していますが、その中でも裁判所の指定による鑑定が実施されたのは、4件だけです。しかし、中には、鑑定費用など取るに足らないくらい評価額が上がるケースもあります。そのようなケースでは当然鑑定が実施され本件がその一つになります。本件では、遺産分割が終了するまでの間、依頼者様にも毎月賃料を送金したもらえることになっていましたので、中途半端な鑑定額で、中途半端な代償金でマンションを全てお母さんに取得されてしまうよりは、このまま遺産分割を引き延ばして、毎月賃料をもらっていた方が金銭的には得になるケースでした。しかし、事前に私が懇意にしている不動産鑑定士に相談したところ、このマンションは鑑定すれば評価額が跳ね上がることが予想されたため、裁判所に鑑定の実施を求めました。結果として、こちらの予想とおりに鑑定額は跳ね上がり、十二分は代償金を取得することができました。