2018年4月、歩道を歩いていた猪狩ともかさんは、強風で倒れた看板の下敷きになる事故に遭い、脊髄を損傷。車椅子生活を余儀なくされた。事故後もアイドルグループ「仮面女子」のメンバーとしてステージに上がり続ける一方、力を入れてきたのがSNSでの発信だ。
そのテーマは政治や外国人問題など、賛否が別れる議題も多い。「イメージ商売」の象徴とも言えるアイドルにとって、炎上リスクは常につきまとう。それでもなぜ彼女は声を上げ続けるのか。その原動力を聞いた。(弁護士ドットコムニュース・玉村勇樹)
●「忖度しない」信念と批判への覚悟
外国人犯罪者について、「全員国外退去で良くないですか」。参政党への抗議活動について「日本国旗を傷つけるのが表現の自由っておかしくないですか?」─。猪狩さんのXには歯に衣着せぬ発言が並ぶ。
共感を呼ぶ一方で、「アイドルなのに生意気だ」というような批判の声も少なくない。それでも、「一切気にしていません」と言い切る。
「信念は忖度しないこと。ダメなものはダメとはっきり言える人間でありたいです。全ての人が賛同してくれるとは思っていません。批判も来ると覚悟した上で発信しています」
●SNSだからこそ感じる手応え
「たくさんの方が見てくださっているのを自覚しているので、発言には責任を感じています」と語る一方、「迷いや葛藤はない」とも話す。
SNSではリアルタイムで反応が届く。賛同の声や「勇気づけられた」というメッセージは活動の糧になる。
「ファンの人以外からも『猪狩さんの発信がなかったら気づかなかった』などと言われることが多い。そういう声は本当に励みになります」
●「多くの人が日本で生活することに不安を感じている」
車椅子姿の猪狩さん。障害については「ユーモアを交えること」を心がけているという。(写真提供:クリーブラッツ)
事故後は健常者の頃以上にリアルな活動が制限され、SNSに向き合う時間が増えた。自身の障がいについても発信するが、愚痴にならないよう、ユーモアを交えることを心がけている。
それでも活動をしていく中で、「ビジネス脊髄損傷」「ビジネス障がい者」などといった心無い言葉を浴びせられることもある。発言や活動を「ビジネス」と見なされることが何よりも切ないという。「タレント業なので本当にビジネスとして考えるなら、社会に対して物申すなんてしないのが一番なんです」。
それでも発信を続ける理由ははっきりしている。
「多くの人が将来に少なからず不安を感じていると思います。私もその一人です。自分がお役に立てる方法を考えた時、SNSで声をあげるのが一番効率的だと思いました。言葉や文字の力を強く感じたことも大きいです」。
●目指すのは「多様さ」を受け入れる社会
「継続することが得意」と話す猪狩さん。今後も「仮面女子」で活動するアイドルとして、自分の思いを発信し続けたいと意気込む。望むのは「色々な考えの人がいて当たり前」という思いやりのある社会だ。
「現代は自分の正義を世の中の正義だと信じて押し付ける人が多い印象です。正義の形は人の数だけある。SNSなどを通じて色んな人がいることを知り、それを容認できる社会になればいいと思います」。
そして最後に、決然と言った。「これからも、忖度せずに発信していきたいと思います」。