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女性検事「認めれば処分軽くする」と不適切な取り調べーー元検事の弁護士はどうみる?
2015年12月24日 11時34分

東京地検の20代の女性検事が、取り調べをおこなった被疑者に対して、犯行を認めれば刑事処分を軽くするなどと発言していたことが判明し、話題になった。

報道によると、女性検事は、痴漢をしたとして東京都迷惑防止条例違反容疑で逮捕・送検された男性に、犯行を認めれば公開の裁判ではなく、書面で審理される略式起訴にとどめると持ちかけた。

また、麻薬取締法違反容疑で勾留中の暴力団組員に、弁護人を解任すれば接見禁止を裁判所に請求しないと話したという。利益誘導ではないかと検察庁内で問題になり、その後、女性検事は依願退職した。

検事が被疑者に対して軽い処分を持ちかけたりすることは、どんな問題があるのだろうか。元検事の荒木樹弁護士に聞いた。

東京地検の20代の女性検事が、取り調べをおこなった被疑者に対して、犯行を認めれば刑事処分を軽くするなどと発言していたことが判明し、話題になった。

報道によると、女性検事は、痴漢をしたとして東京都迷惑防止条例違反容疑で逮捕・送検された男性に、犯行を認めれば公開の裁判ではなく、書面で審理される略式起訴にとどめると持ちかけた。

また、麻薬取締法違反容疑で勾留中の暴力団組員に、弁護人を解任すれば接見禁止を裁判所に請求しないと話したという。利益誘導ではないかと検察庁内で問題になり、その後、女性検事は依願退職した。

検事が被疑者に対して軽い処分を持ちかけたりすることは、どんな問題があるのだろうか。元検事の荒木樹弁護士に聞いた。

●供述が「証拠」として採用されない可能性がある

「捜査における利益誘導が問題あるかは、実は複雑な問題です。被害弁償や反省の態度、捜査への積極的な協力などの事情をとらえて、罪を軽くすることは、裁判の場では一般的に行われています。

また、被害弁償や反省文の作成、被害者への謝罪を検察官が勧めたからといって、そのこと自体は違法性があるわけではありません」

荒木弁護士はこのように説明する。では、「●●すれば罪を軽くする」と被疑者に持ちかけることも、問題ないのだろうか。

「いえ、様々な問題が生じる可能性があります。

刑事訴訟法では、任意に作成されたことに疑いがある供述調書について、裁判所は証拠として採用できないことになっています。

その理由はいくつかありますが、任意で作成されたことに疑いのある供述調書には、ウソの内容が入り込む恐れがあったり、被疑者の人権が侵害される可能性があるからと考えられています。

『罪を認めれば起訴しない』『罪を軽くする』などと持ちかけられたら、被疑者は本当は罪を犯していなくても、『早く楽になりたい』『起訴されたら、どうせ有罪になってしまう』と考えて、ウソの自白をしてしまう恐れがあります。

こうしたことから、利益誘導を伴う約束は、供述の任意性に疑問が生じることとなるので、後の裁判で、証拠として採用されない可能性があります。

また、利益誘導を行う取調べ自体も、被疑者の供述拒否権を侵害するおそれがあるとして、国家賠償請求の対象となる可能性もあります。

さらに、『弁護人を解任すれば接見禁止を付けない』などと約束することは、被疑者の弁護人選任権までも侵害するおそれがあり、違法とされる可能性が高いと思われます。

このように、利益誘導を用いた捜査は、刑事訴訟法上の被害者の防御権を侵害する恐れが高く、問題が多いとされているのです」

●検察官にとって悩ましい問題もある

ただ、荒木弁護士は、今回のようなケースでは、検察官にとって悩ましい点もあるという。

「『自白であれば罰金で終わる』という事件が現実に存在し、他方で、被疑者や弁護人の側からも、『認めれば罰金で済みますか?』と尋ねられることは、日常的にあることです。

逮捕・勾留の段階では、裁判の場合と違って、被疑者・弁護人の側では証拠の内容を確認できず、最終処分の見込みが正確に予測できないため、どうしても、検察官からの情報提供に頼らざるをえないという事情があります。

こういった場合、検察官としては、可能な範囲で処分の見通しを説明しますが、利益誘導の批判を受けないように、慎重に説明することになります。

たとえば、弁護人に対してであれば、『自白の場合、この種の事案は、通常は罰金刑のことが多いです。ただし、必ず罰金刑になると約束できるわけではありませんので、被疑者に伝えるときは慎重にお願いします』などとと伝えることも、場合によっては許されるかと思います」

荒木弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

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