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裁判員裁判であいつぐ「無罪判決」 これは司法への「イエローカード」か?
2013年07月24日 16時45分

覚せい剤密輸事件の「裁判員裁判」で、無罪判決が相次いでいるという。

今年5月、覚醒剤約7.9キロ(末端価格約6億3000万円)をウガンダからスーツケースに隠して持ち込んだとして、覚せい剤取締法違反(営利目的密輸)などの罪に問われた20代女性の裁判員裁判で、大阪地裁が無罪を言い渡した。産経新聞によると、女性は「交際相手のウガンダ人が荷造りをした」と説明し、覚醒剤が入っていることは知らなかったと主張、判決でも「女性は密売組織に一方的に運び役として利用された可能性がある」とされた。

同法違反(営利目的密輸)について、裁判員裁判での無罪判決は今年だけでも数件出されているという。同じように海外で知人に手荷物を渡されたが「中身は知らなかった」と主張して、認められるケースが多いようだ。

こうした事態に対して、最高検は昨年4月に覚せい剤密輸事件の立証を見直す委員会を発足。その後、立証の注意点などをまとめ各地検に周知したという。なぜ、このような事態になっているのか。刑事事件にくわしい大山滋郎弁護士に聞いた。

●国民から突きつけられた「ノー」 どう答えるかが「法曹村」の課題

「これは必ずしも多数派意見ではありませんが・・・」。大山弁護士はこう断りを入れた上で、切り出した。

「明確な証拠がない場合に、どういう判断を下すか――この論点に『正解』はありません。法律を見ても、どうすべきだとは、どこにも書いてありません。

めちゃくちゃ怪しいから有罪にしろというのもあり得る一方、明確な証拠が無い以上、『疑わしきは被告人の利益に』の原則通り、無罪に決まっているだろうということもあり得ます」

――法律に「正解」がないなら、裁判はどうやって行われてきた?

「裁判ではどのように判断されてきたのかと言えば、まさに『法曹基準』とでもいうものがあって、それに従って処理されていたとしか言いようがないと思います。

単純でないのは、この『法曹基準』が場面ごとに違うということです。これまでは、たとえば、麻薬の密輸については、『知らないという言い訳は許さない』であり、政治資金関連については『知っているという明確な証拠が無いと立件不可能』だったのです。

ところが、相互の関係性やバランスについて考察されているということは、寡聞にして知りません。つまり、説明したくても『なぜかはわからないけれども、法曹基準によって、このように決まっています』としか言えないことなのです」

――それこそが『専門家の知恵』なのでは?

「問題なのは、一般の国民が完全に蚊帳の外という点です。今起きているのは、このような国民不在の『法曹基準』に対する、国民の側からの異議申し立てだと考えるべきです。

つまり、麻薬密輸事件の裁判員裁判にあてはめれば、『このような事件の場合、明確な証拠はなくても、怪しすぎる場合は有罪とする』という『法曹基準』が、国民から見るとおかしいということでしょう」

――それは、素人が判断できること?

「私が非常に気になるのは、まさにそういう声です。多くの法曹関係者が、このような国民の声に対して、非常に冷たい反応をしています。裁判員裁判や検察審査会を『だからダメなんだ』と非難する関係者の意見を多く目にしました。

そういった反応は、職業裁判官の判決が『正しい』ものだということを前提にしているわけですね。しかし、繰り返しになりますが、こういった判断にはそもそも『正解』はありません。むしろ、どのようにするのか『決断』を迫られている問題だと思うのです」

――裁判官の判断は「絶対」ではないのか。

「それなら、なぜ裁判員裁判が始まったのでしょうか。正解がない問題こそ、『法曹村の住人』が勝手に決めるのではなく、国民の見解を反映させるべきでしょう。私に言わせれば、『自分たちの見解と違うから間違いだ!』というのは、法曹の傲慢以上の何物でもないですね」

大山弁護士は「意識を変えるべきなのは、法曹関係者だ」と締めくくった。裁判員裁判で相次いでいる無罪判決は、おごる法曹関係者への「イエローカード」といえるのかもしれない。多くの人から支持される論理を作り上げ、きちんと通じる言葉で人々に伝えていくことも、これからの司法に求められる重要な役割なのだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

覚せい剤密輸事件の「裁判員裁判」で、無罪判決が相次いでいるという。

今年5月、覚醒剤約7.9キロ(末端価格約6億3000万円)をウガンダからスーツケースに隠して持ち込んだとして、覚せい剤取締法違反(営利目的密輸)などの罪に問われた20代女性の裁判員裁判で、大阪地裁が無罪を言い渡した。産経新聞によると、女性は「交際相手のウガンダ人が荷造りをした」と説明し、覚醒剤が入っていることは知らなかったと主張、判決でも「女性は密売組織に一方的に運び役として利用された可能性がある」とされた。

同法違反(営利目的密輸)について、裁判員裁判での無罪判決は今年だけでも数件出されているという。同じように海外で知人に手荷物を渡されたが「中身は知らなかった」と主張して、認められるケースが多いようだ。

こうした事態に対して、最高検は昨年4月に覚せい剤密輸事件の立証を見直す委員会を発足。その後、立証の注意点などをまとめ各地検に周知したという。なぜ、このような事態になっているのか。刑事事件にくわしい大山滋郎弁護士に聞いた。

●国民から突きつけられた「ノー」 どう答えるかが「法曹村」の課題

「これは必ずしも多数派意見ではありませんが・・・」。大山弁護士はこう断りを入れた上で、切り出した。

「明確な証拠がない場合に、どういう判断を下すか――この論点に『正解』はありません。法律を見ても、どうすべきだとは、どこにも書いてありません。

めちゃくちゃ怪しいから有罪にしろというのもあり得る一方、明確な証拠が無い以上、『疑わしきは被告人の利益に』の原則通り、無罪に決まっているだろうということもあり得ます」

――法律に「正解」がないなら、裁判はどうやって行われてきた?

「裁判ではどのように判断されてきたのかと言えば、まさに『法曹基準』とでもいうものがあって、それに従って処理されていたとしか言いようがないと思います。

単純でないのは、この『法曹基準』が場面ごとに違うということです。これまでは、たとえば、麻薬の密輸については、『知らないという言い訳は許さない』であり、政治資金関連については『知っているという明確な証拠が無いと立件不可能』だったのです。

ところが、相互の関係性やバランスについて考察されているということは、寡聞にして知りません。つまり、説明したくても『なぜかはわからないけれども、法曹基準によって、このように決まっています』としか言えないことなのです」

――それこそが『専門家の知恵』なのでは?

「問題なのは、一般の国民が完全に蚊帳の外という点です。今起きているのは、このような国民不在の『法曹基準』に対する、国民の側からの異議申し立てだと考えるべきです。

つまり、麻薬密輸事件の裁判員裁判にあてはめれば、『このような事件の場合、明確な証拠はなくても、怪しすぎる場合は有罪とする』という『法曹基準』が、国民から見るとおかしいということでしょう」

――それは、素人が判断できること?

「私が非常に気になるのは、まさにそういう声です。多くの法曹関係者が、このような国民の声に対して、非常に冷たい反応をしています。裁判員裁判や検察審査会を『だからダメなんだ』と非難する関係者の意見を多く目にしました。

そういった反応は、職業裁判官の判決が『正しい』ものだということを前提にしているわけですね。しかし、繰り返しになりますが、こういった判断にはそもそも『正解』はありません。むしろ、どのようにするのか『決断』を迫られている問題だと思うのです」

――裁判官の判断は「絶対」ではないのか。

「それなら、なぜ裁判員裁判が始まったのでしょうか。正解がない問題こそ、『法曹村の住人』が勝手に決めるのではなく、国民の見解を反映させるべきでしょう。私に言わせれば、『自分たちの見解と違うから間違いだ!』というのは、法曹の傲慢以上の何物でもないですね」

大山弁護士は「意識を変えるべきなのは、法曹関係者だ」と締めくくった。裁判員裁判で相次いでいる無罪判決は、おごる法曹関係者への「イエローカード」といえるのかもしれない。多くの人から支持される論理を作り上げ、きちんと通じる言葉で人々に伝えていくことも、これからの司法に求められる重要な役割なのだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

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