「iDeCoは解約できないから、分けなくていいよね」。離婚協議中のKさん(40代・男性)がiDeCo(個人型確定拠出年金)について弁護士ドットコムニュース編集部に相談を寄せました。
Kさんは、家賃や食費光熱費などを負担していて、妻は、自身の収入のほとんどを投資にあてているという状況でした。
妻は「これは自分名義の年金であり、60歳まで引き出すことができない。そのため財産分与の対象にはならないはずだ」と主張しています。一方、Kさんは「自分が家賃や、食費を出していたから、投資に回せていたのではないか。だから、財産分与するべきでは。このままでは理不尽すぎます」と反論しています。
はたして法律上、iDeCoの積立金はどのように取り扱われるのでしょうか。
●iDeCo積立金は財産分与の対象となる?
財産分与の基本的な考え方は、夫婦が協力して形成した共有財産を清算することにあります。iDeCoの積立金についても、夫婦が協力してその形成を行った場合には財産分与の対象となります。
名義が妻のみになっている、という形式面だけをみるのではなく、夫婦の協力によって積立てが可能になったかどうか実質的に判断されます。
また、60歳まで引き出せないからといって、財産分与の対象から除かれるわけではありません。
たとえば、iDeCoそのものではありませんが、同じように、定年まで引き出せない企業の確定拠出年金は、将来受給予定の年金であっても、別居時などの基準時において実質的な共有財産がある場合、財産分与の対象となるとされています。
これと同様に、iDeCoも受給が始まってから、元配偶者に対する分割が始まると考えられます。
●いつの時点のiDeCoの金額が財産分与の基準になる?
財産分与における基準時は、基本的には話し合いで決めることができます。そこで折り合いがつかなければ、調停や裁判の終わるときが基準とされることが多いです。
また、夫婦が別居した場合には、別居時点が基準時とされています。これは、財産分与は、夫婦の協力によって形成された財産を対象とするため、その協力関係が途絶える別居時を基準とすべきという理由に基づいています。
なお、夫婦の財産形成への寄与割合は、実務上、家事労働の場合でも原則として50%とすることが一般的です。
今回の事例でいえば、財産分与の対象と算出された金額につき、Kさんも50%の分与を求めることができると考えられます。
●具体的な対応策
妻のiDeCoについて、夫が財産分与の対象とすべきだという主張をする場合、夫側からみて考えられる対応策としては、以下のようなものが挙げられます。
手続きとしては、まず夫婦で協議をするのが基本です。協議での解決が困難な場合には、家庭裁判所での調停申立ても選択肢となります。調停では、中立的な調停委員の関与のもとで、双方の事情を踏まえた解決策を模索することができます。
iDeCoをめぐって財産分与の金額等に争いが生じた場合には、iDeCoの詳細な積立状況を確認することが重要です。離婚調停中であれば、相手方に情報を開示するよう求めますが、相手方が情報開示に応じない場合には、裁判所に調査嘱託の申立てを行うことも考えられます。
次に、夫婦の協力による積立てであったことを示す証拠の収集が考えられます。家計の状況や拠出原資の出所などを明らかにする資料を整理することが大切です。
最後に、専門家への相談も重要です。財産分与は複雑な法的問題を含むため、弁護士等の専門家のアドバイスを受けながら適切な対応を検討することが望ましいといえるでしょう。