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月2.5億円の役員報酬は「高すぎ?」 味噌会社の訴え、最高裁が退ける 原告は"さじ加減課税"に異議
2025年06月06日 10時31分
#松井味噌 #国税局 #役員報酬 #税務訴訟

関西を拠点とする味噌会社のグループ企業が国(国税当局)から受けた約3億8500万円の課税処分の取り消しをもとめた裁判で、最高裁はこのほど上告を退ける決定を出した。

原告の1人に支払った月2億5000万円の役員報酬について、国税が「高すぎる」とした判断が認められたかたちだ。

しかし、国税が役員報酬が過大か否かを線引きすることや、税務調査への姿勢などへの批判の声も根強い。原告に話を聞いた。(ジャーナリスト・富岡悠希)

関西を拠点とする味噌会社のグループ企業が国(国税当局)から受けた約3億8500万円の課税処分の取り消しをもとめた裁判で、最高裁はこのほど上告を退ける決定を出した。

原告の1人に支払った月2億5000万円の役員報酬について、国税が「高すぎる」とした判断が認められたかたちだ。

しかし、国税が役員報酬が過大か否かを線引きすることや、税務調査への姿勢などへの批判の声も根強い。原告に話を聞いた。(ジャーナリスト・富岡悠希)

●最高裁が「判例」を出すことを期待していたが・・・

原告は、京都市にある「京醍醐味噌」。中国で模造品が出るほどの高い知名度を誇る「松井味噌」(兵庫県明石市)のグループ企業だ。

国税当局は2018年、京醍醐味噌の税務調査を実施。2013年〜2016年の4年間、代表である松井健一さんと実弟に支払われた役員報酬21億5100万円のうち、約18億3956円分を「不相当に高額」と指摘した。

その結果、約3億8500万円の課税処分を受けたため、松井さんらは処分取り消しを求めて東京地裁に提訴したが、2023年3月に棄却となった。東京高裁への控訴は実らず、最高裁も2024年12月に却下とした。

取材に応じた松井さんは、最高裁が審理をせず「門前払い」をしたことへの悔しさをあらわにした。

「完全勝訴はないことはわかっていましたが、役員報酬に関する新たな判例を最高裁が出すと期待していました。それだけに残念です。今のままだと、国税のさじ加減で、経営者の報酬に上限をかけられることが続いてしまいます」

●「自分たちはダントツの成果を上げている」という自負

松井さんが特に疑問を呈するのが、国税当局が役員報酬を「地域限定倍半基準」で決めている点だ。

この基準では、まず、その企業の所在で、比較する企業の地域を限定する。その中から同業種のうち、売上の2倍〜半分となる「倍半基準」で企業を選定。最後に、それらの企業の役員報酬の平均値を取りまとめる。

裁判開始時に国税当局が示してきた「適正給与支給額」では、2016年の場合、松井さんが844万円で、弟は実働4カ月のみだとして281万となっている。

松井さんはこれに反論する。

「当時、松井味噌グループは金融資産だけでも200億円を持っており、しかも全社無借金経営でした。会社の稼ぎ手は、私と弟だけ。2人で300~400億円を儲けないと、税金を支払ったあとでは残せない金額です。こうした実績と比べると、私の900万円にも満たない金額は低すぎます」

松井さんの自信の背景には、成功物語がある。

松井味噌の3代目社長(松井味噌グループ16代目)として、1990年代から中国・大連に進出。日本より大幅に安い大豆や米、塩などを使い味噌関連製品を作り、1980年代に約2億円だった年商を2017年には200億円まで成長させた。最近では、中国内でウイスキービジネスにも進出している。

さらに松井さんは、味噌屋の「完全なる不況業種」ぶりも付け加えた。かつて130あった兵庫県の味噌屋の数は現在11軒までに減少しているとし、「他の誰もが食えなくなっている中、自分たちはダントツの成果を上げている」と自負した。

●「年収2000万円で雇うから同じことやってみて」

地裁、高裁の裁判で、松井さんは弁護士2人と出廷した。一方、国税側は毎回、10人近くの弁護団を組み、さらに傍聴席には国税職員が20人近く見学に来ていたという。

「傍聴席にいたのは、主に20代の若手でした。裁判をしてまで国税と対立するのが珍しく、『勉強に行け』と言われたのでしょうね」

弁護士と相談したうえ、裁判の席で松井さんが国税職員たちに怒りをぶつけたことがあった。居並ぶ若手国税職員に対して「そこにいる20人以上全員を年収2000万円で雇うから、1人でも私と同じことができるならやってみればよい」と呼びかけたのだ。

その裏には、「適正給与支給額」への疑問に加え、税務調査で「経営者として大したことをしていない」と言われたことへの憤りがあった。

また、松井さんは中小企業の経営者の多くが、税務調査への対応に苦慮していることにも言及した。「何らかのお土産がないと帰ってくれない」というのが、仲間の経営者の共通認識になっているという。納得いかなくても、粘られるよりはましと考え、国税に花を持たせるのだ。

役員報酬が過大だと指摘を受ける数年前にも、松井さんは国税の税務調査を受けた。

その際には、申告内容に特に問題が見つからないとの結論に至る「是認」を得た。顧問税理士は「国税調査の是認をとることは、プロ野球の打者で三冠王を獲得するような快挙」と喜び、寿司屋でパーティーを開いてくれたという。

●「さじ加減一つで課税できるのはおかしい」

実際、松井さんは税務調査のときから足掛け7年近く、国税とやり合った。「聞きたいことがあるから戻って来て」と言われ、滞在先の中国から帰国したが、国税側が前日になり「やっぱりいいです」と断りを入れてきたこともあった。

また、役員報酬への指摘は、事業の正当性を調べた国税が「採算性、実現性に問題はありませんでした」と結論付けたあと、突然持ち出されたものだった。それだけに国税への不信感は拭えない。

「2人だけの会社のため、裁判などの対応でどれだけ事業が遅れたか。なければ、よりビジネスで利益を出せ、国に貢献し、税金ももっと払えた」

こう総括する松井さんだが、決して後悔の念はない。ただし、国税の対応が示す不透明さが残る日本のビジネス環境に警鐘を鳴らす。

味噌屋と聞くと一般には、蔵で職人が丁寧に仕込んだ味噌を出荷する仕事をイメージするかもしれない。しかし、松井さんは日本・中国・イギリス・シンガポール・マレーシア・香港に法人を構えている。

「各国を比較する中、日本の法人税の高さはマイナスに働きますが、まだ明文化されたルールなので受け入れられます。ただし、国税が『あいつはいっぱいもらっているから、税金とったろう』と役員報酬に目を付け、さじ加減一つで課税できるのは、おかしいと思います。

『地域限定倍半基準』を言うのなら、土地の値段を示す地価公示と同じように、国税が役員報酬の目安を示してくれないと困ります。慣例や不文律が強い国では、ビジネスは育ちません」

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